先行投資としての勉強があるからこそ次のことができる(川口恭伸さんインタビュー3/4)

先行投資としての勉強があるからこそ次のことができる
本記事はアジャイルコーチとしてご活躍されている川口恭伸さんのインタビューの3記事目をお送りいたします。※本インタビュー記事はイベントにて話された内容をベースに作成したものです。所属は2018/05/15現在のものです。

3)先行投資としての勉強があるからこそ次のことができる

 

カンファレンスで感じた課題感が英語を勉強するきっかけだった
元々スクラムはやってたのは今までの流れで十分わかるのですが、英語はどこで習得されたのでしょうか。または元々得意だったのでしょうか。

英語は全然得意ではなくて、大学で英語落第したぐらい全然ダメで。2002年ごろ会社の資格補助制度があって、受かったら受験料も出る制度がありました。情報処理試験や株のニュース扱っていた会社だったので証券アナリストなど4年かけてゆっくり取って一通り取り終わっていました。次何やろうかなと思って、TOEIC700点で報賞金がでる制度があって。情報を扱う会社なんで英語もちょいちょいできる人達がいて、英語の勉強会などで先輩が英語話していたので次は英語かなと思いました。

僕が関わるリリースは障害がないんです。若干自慢なのですが。テストを自分たちがやっていたからかも。プロダクションコード書いちゃいけませんルールになっていましたが、デプロイ(サーバーの再起動)が必要ないjavascriptなら大丈夫となり、8割ぐらい自分が作っていたから認識齟齬によるバグが起きずに済んだのだと思います。障害がなかったのでリリース後は時間がとれたんですね。

そこでアメリカのカンファレンスに行かせてもらえました。それが9.11の翌年の2002年。行ったら、マリッサ・メイヤーっていうGoogleの初の女性社員がいて、その後ヤフーの社長になる、当時はマーケティング担当でした。
スライドの内容はわかるのですが、アメリカなんで途中途中で質疑応答がばんばん入るんです。なんだか楽しそうな話をしていて会場がワーとか湧くわけです。しかしその内容がちんぷんかんぷんでまったくわからない。金まで払って有償のカンファレンス行って会議まで出てるのに、ビデオ見ても把握できるところまでしか英語わからないのにニューヨーまで12時間かけて行って、俺何やってるだろうと一緒にいった先輩と自覚しました。次にやる事は英語だと。

ちょうど国(ハローワークから)職業訓練給付金がもらえる時期で、半年間で条件レベルまで上がれば成功報酬でもらえたんですね。その最後の年でした。勢いで同期と一緒に出して半年やったんですけど。なんとその時娘が生まれたばかりの年で、0歳児がいました。娘と同時にそのアプリケーション、Javascriptを書いていたサービスもだいたい娘と同時にリリースして。全部重なって。娘を会社の横の認可保育園にちょっと高かったですけどそこに入って。会社を5時半にダッシュして娘をピックアップして家までガッと連れてって、飯食わしてガッと置いてきて、そのまま英会話に行くとかっていう生活を半年ぐらいやっていました。

川口さんの方がお子さんのお迎えとかやってたんですね。

会社の隣なんで。ガッとやってガッと。飯は用意してくれてるんでも、食わして出てくだけで。

それが成り立つのはお子さんもすごいいい子ですね。

今もいい子です。おとなしい。そんな事やってました。それで一応700点は超えた。その前470点だったんですけど、770点まで半年間でがーって上がって。TOEICは勉強すりゃあ上がるって。TOEIC専門の勉強してないんですけど。
時間取るか取らないか、全然いけますよ。

TOEICの点数は一気にやるかやらないか?

100点上げるのにこれぐらいの時間必要みたいな雑な統計軸がある。でも今仕事である会社さんの英語普及をお手伝いしているとやっぱやった人だけ上がるんですよ。そこは努力は裏切らないというと嘘くさいですけど、少なくとも英語に関しては時間を取るかどうかが勝負だなと思います。

4割「短期的な仕事」、3割「中期的な課題解決」、残りは「未来のための勉強投資」
 

スクラムの勉強はどんなふうに取得しましたか?

スクラムの技術的な話は僕にとってメインの仕事なので、技能を取得すること自体もプロフェッショナルたる仕事だろうと思っています。僕じゃないとできないところがあるから、会社は僕を雇ってると思ってたので。
当時一緒に仕事をしてた人に話していたのは、4割は「短期的に今こなさなきゃいけない仕事」3割は「中期的に改善しなきゃいけないとか、ちょっとスパンを長めに取らないと直らないような抜本的な仕事」を、残りは「勉強」しましょうと。
勉強時間がないと先の選択肢が見出せないので、その次の中長期にも、直近の仕事も直せるかわかんないからとずっと言ってたんですよ。短、中、長をきちっとバランス良く時間を使おうぜって。
今にして思えばその長の勉強に使う時間を「勉強だけやっててどうすんの?」みたいな、突っ込まれそうなもんじゃないですか。当時は誰も突っ込まなくて、ずっとそれやってたんです。でも勉強っていっても、例えば仕様書の書き方とかをもうちょっと上手くやろうぜみたいなかたち。実務に繋がる勉強を当然、その先に繋がる勉強を選んでやろうぜみたいな感じで、その中にスクラム入ってたんですね。
就業時間ではなく、家で勉強しなさいと最近言われているようですが、勉強しないひとが多かったせいでその会社の選択肢が失われていて、イノベーションがない状況が生まれているように思います。「どうやったらイノベーション起こせますか?」って未来のために勉強投資する時間をまず確保することだと僕は思います。

掛け合わせることで価値がでる、相手を知って価値が発揮される
川口さんはどのような考え方でスキルを身につけていっていますか?

自分の圧倒的な専門を持つのが大事だとみんな考えがちだと思います。でも僕がQUICKという会社で新人の時に違うなと思ったんです。僕はコンピューターサービス専攻で大学をでていましたが、所属された部署には周り1人もプログラミングがわからないところでした。僕の専門性活かすっていったって何もできないじゃないですか。よってその部署の業務知識を取得しつつ、コンピューターサイエンス専攻だからこそのプログラミングのバックボーンがあると役に立つなと初年度にわかったのです。UNIXなどそこそこ使えても、その部署で必要なのはExcelなわけですよ。するとExcelのVBAの本も良さそうな物選ぶのは僕にしかできないんで、それで選んでくる。そうすると単純なforループを回すだけでとても役立つ事がたくさんできるとわかってExcelをやりました。また会社入るまでWindows使った事なかったのですが、2,3ヶ月後にはWindowsの上でExcelをつかっていろんな処理できるようになっていました。相手にとって価値がある事ができないといけないんだけど、自分の専門だけにこだわってる人は価値はたぶん生まれない。例えばざっくりとビジネスというエリアとエンジニアリングというエリアがあった時に、両方交わってる人だけが価値があって必要とされる。つまりエンジニアリングをビジネスの人に売るためには、両方わかってる人達だけがお金をもらえるんですよ。

要するに掛けわせる事によって価値が生まれてくるということでしょうか。

T型人材という表現がありますが、π型スキルといって2軸以上あったほうがいいなと思っています。一方だけ詳しいのではなく、相手のことにわかって価値が生まれ、お金がもらえるというビジネスが成り立つという感覚がずっとありますね。

最初は職場の知識をITのスキルと組み合わせる手段としてExcelを極め、そういった掛け算気付いたと思うんですけど、その後はその掛け算の考え方をどのように適応していったのでしょうか。

業務知識が(社内の知識)があって、何をやったらその会社として価値があるかを考える。会社のことと、スクラムのこと両方の知識があったからこそ、社内にあった形で導入できるんですね。これが外部のコンサルト呼んでも、社内のことを知らないのでうまくできないんですよ。
例えば当時仮想化のコンサルタントの人が来ました。その人達が会社にあったものを考えようとしたときに会社の中の事を調べるにはインタビューして回らないとわかりません。けれどもそもそも誰に適切にインタビューしていいかどうかをわからないのにプロジェクトマネージャーがそのまま放っていたんですね。べつに全然任命されてないけど、これはまずいなと思って。もう仮想化も勉強していたので、そのコンサルタントの人達と現場を結び付けるインタビューを僕らがやってしました。
あくまでも需要と供給の話で、こっち側とあっち側で欲しい物が両方あって、両方わかってるからこっちの人には「あっちの人はこういう風な事を知っていて、こうやったらあっちの価値引き出せますよ。うまく買えますよ」って言ってあげればいい。その逆もしたらいいんですよね。

じゃあそれぞれの事はちゃんと理解してるって事ですか。

そう。相手と話せるぐらいに理解しておくと、いい感じに火傷しないというか。
例えばソフトウェア開発の受発注の関係だと、発注側があんまりにも知識がないと受注側は高い見積もりを出すんですよ。リスクを積むために。発注側は3社あいみつを取りたいってなるのですが、そうするとある会社はリスクを取ってでもこの会社から受注しようとして、安くし、一番安くて言う事聞きそうだからと発注することになります。しかしやってみたかっただけなので、残念ながらだいたい実力がないために大炎上とかするんですよ。そういうのを横で見てると、そうじゃなくて両方わかってあげれば、うまく判断できるじゃないかと。どういう風にやろうとしてるか聞いてみれば実力もわかるというか。
よって要件定義をまとめるために、その技術的な話と何があったらビジネス的に意味があるからこの予算がこれでみたいな、両方わかっている必要があると思っています。

先行投資することで必要なときに解決策を出せる状態を作る
 

先行投資というか、どんなものを先に勉強しておくように川口さんはしているのでしょうか。

基本的に自分がこれは学んだ方がいいのかなって思ったものにはだいたい金払って勉強しています。それは誰でもやっているのだと思ってたんです。先行投資しようとするとお金がかかります。あまり早いと本がないとか、本場に行かないとわかんないなどあるので。感覚的にだいたい普通より3年早く知識を入れている感覚があり、僕が何かやっててその3年後ぐらいに社内で盛り上がる感じです。

その先行投資するのの基準とかってあったりするんですか?これはしたいっていう思いと、もちろん後逆に失敗したとかもやっぱあったりするんですか?

ちょいちょい失敗はありますね。あんま覚えてないです。
勉強って金かかるっていってもそんな金かかんないんで、常に先にちょっとずつ何かをやってるんですよね。飽きたらやらないんで。飽きてやらなって結局来なくても誰も気にしないというか、僕自身も勉強をやめているわけなので。

当たらなかったことを過去に勉強する事に対して、そんなに時間をすごいさいたとかの損した気分をすることはないのでしょうか。

あんまりないですね。流行りだしたものなどいくつか選択肢がある中で1番やりたいものや、自分の知ってる事からちょっと伸ばしたらできそうなものを選んでいるのだと思います。
また外れた物は3年前とかにやったものなので覚えてないです。当たったときは「あー知ってますよ」みたいな、絶対来るんで「川口これ知ってる?」って、「あー3年前にやりましたよ」みたいな感じで。

先に情報を入手する事によって、生まれる価値があるのでしょうか。

そうですね。数年後に出てくる案件かはわからないんですけど、相談された時に「これとこれとこれを組み合わせればいい感じでできますよ」っていう事を、「できますよ」の中には「とりあえず誰も他の人がやってくれなくても、僕がやれば数週間とか数ヶ月とか物によりますけど、とりあえずけつは持てるな」っていうのは言えるぐらいの物しか。まあちっちゃい案件しか来ないんで。「銀行の勘定系の再生プロジェクトがあるんですけど、川口君これどう?」って、普通来ないんですよね。

重たい案件というよりはちょっとやってみたい事とか困り事とか。

なんかできそうな感じがするんでしょうね。できそうな感じがするのになんか断られたみたいなやつが来る。

「何かやり方ありそうなんだけど、じゃあ川口さんに聞いたら何か答えがもらえそうかも」みたいな。

そういうのがだいたいですね。「そんなんやったら簡単にできるんちゃうの?」って思ったんだけどその人はできなくて、指揮者に聞きにいったらバンッて跳ね返されて来るんで、「それは聞き方が悪いっすよ」みたいな感じなやつ。ちょっとした事でできそうな話っていう。僕が持ってる知り合いだったりとか、知ってる技術さんとか、使った事がある製品だったりとか。もう1歩でできそうなのとか来ますね。それをだから作ってるんだと思います。金は貯まんないですけど。お金につながってなくてお金はないです。お金はないってうちの奥さんによく怒られてます。

これで、3)先行投資としての勉強があるからこそ次のことができる の記事は終了となります
<記事一覧>
1)会社で必要な知識と自分のスキルを組み合わせてみんなの困りごとを解決し、「社内」の信頼貯金を作った
2)社外勉強会、大規模イベント、本出版実現は「社外」信頼貯金が鍵だった
3)先行投資としての勉強があるからこそ次のことができる

以下は近日公開!お楽しみに。
4)川口さんの価値観と今後について