川口さんの価値観と今後(川口恭伸さんインタビュー4/4)

本記事はアジャイルコーチとしてご活躍されている川口恭伸さんのインタビューの3記事目をお送りいたします。※本インタビュー記事はイベントにて話された内容をベースに作成したものです。所属は2018/05/15現在のものです。

4)川口さんの価値観と今後について迫ります。

価値観や今(インタビュー時)の会社に入った理由や今後の野望などいろんなお話を伺った内容を今回は記事にしました。

一番大切なのは家族
川口さんのなかで絶対に大事にしたい人生観などはありますか?

これはもう入社1年目から言ってますけども、家族が大事。入社して4ヶ月後に結婚しました。「家族を幸せにしたいです」っていうのは最初っから。じゃあそのわりに幸せになってねえじゃねえかっていうツッコミがすごい思うんですけど。

逆に家族が一番にあるとなると、仕事は川口さんにとってどういう存在というか。

家族を幸せにするためには仕事が必要。だから食っていけるためにすぐに提供できるスキル、知識をは作っとかないといけないし、「これできる?」って聞かれたらすぐ返せるようにしとかないと食えないじゃないですか。給料が上がるって意味でなくて、自分が相談をされる立場にいれる状態を作っておく。

常に食えるような、ある意味フリーランスでもいけそうですね

そうですね。会社の傘が外れてもってなると結局的にそうなんですけど、別に会社の中にいても同じで、会社の中の問題解決ができる状態じゃないと社内でも食えないじゃないですか。普段周りから何をやってるのかわからないのは全然構わなくて、どうせ3年先の事やってるんで。全然そこ気にしてないところはあるんですけど。

食えることが優先で、嫌なこととかはないのでしょうか。

他の誰かが解決できることを来させない雰囲気はちょっとあるかもしれません。前の会社では「川口は好きな事しかしない」みたいな事言われかたをしたこともありました。「頼まれた仕事しかしてないから、好きな事してるわけではないのにな」って思うんですね。会社にとって必要でやった方が良くて、誰も引き取り手がなくてやってるんだから、僕は選んでないです。全然選んでないんだけど、でも僕だったらうまくいく事しかやってないから、うまくいく事ばっかりやってるように見える。外から見たら完全に選んでる。「スクラムやりたいからスクラムやってるんでしょ」みたいのは選ぶんですけど、「このタイミングこの案件でこの感じだからスクラムをやると、会社にとっても他の人やってないからいいでしょ」、だからやるんですよ。だからそういう意味では必然性があって僕の中でやってる。必然性があってかつ僕がやっても別に、得意な事はあんまり嫌じゃないじゃないですか。だからやれるなら気持ちが上がるわけですよね。

そういう案件だとありがとうも言われやすいっていうのもありますもんね。でもそれみんなで応えてるようで普通の仕事も、いわゆる上司から降りてきた仕事もやられながらそれやってたって事ですか?

そうですね。でもほっとく上司としか付き合わない説はあるかもしれない。「それ本当に必要だと思って言ってますか?」「それが優先だとマジで思ってますか?」みたいな見解の相違は確認してしまいますね。会社の状況わかってますからねみたいな。だから使いずらい部下っていう説もある。評価はいただいてますけど。
今と今後について

楽天にはイベントで知り合った人がきっかけで入社。現場を知るためにヒアリングからスタートした
今(インタビュー時点)川口さんは楽天にいらっしゃいますが、どんなきっかけだったのでしょうか?

スクラムギャザリングの後に飲み会で「楽天でアジャイルをやってください」という話をもらったのがきっかけでした。検討して数ヶ月後にはいりました。
入社して正式な推進担当者としていきなり入って、会社の状況わかんないしマネジメントの状況もわかりませんでした。入った部署が間接部門で、「そういう普及施策をやる部門だからどんどんやってください」みたいな感じなんだけど、現場がわかんないんですよ。なので現場をいろいろ回って「どんなんやりたいですか?」「何困ってますか?」みたいな話をヒアリングにいきました。ちょっと研修を仕掛けて「スクラムやります」って言ってマネージャーを参加募ったら、ブッキングの仕方が悪かったらしく、「これは必須の予定なんですか?」みたいな事を隣の全然違う部署の偉い人から言われて、「オフショナルなやり方がわかんなかった」みたいな返しをしてしまったり最初は戸惑いました。

今はスクラムだけでなく教育のこともやられていていろんな事挑戦されてるなと思いますが、今後は何かこんな事をやってみたいことなどありますか?

先の話はあんまり考えてないんですけど、今はちょっとやっぱり英語教育の普及、後コーディングの研修を新人向けに4月やったりしています。テレビでも放送されることになり、縁あって社内研修もやっていますね。

僕らだったら開発者向けの新人研修は経験があったので、ゴールを設定し、その年の都合に合わせて期間も決めて、体制やコンテンツ候補の話まで詰める。研修の運営経験もあるので誰に頼めば場所取れるか全部知ってるから、わかんない事はそんなにないので、後はコンセプト。エグゼクティブの人達は基本曖昧で後は任せるみたいな感じだと思うんで、やりたいことをききだし、細かいところは提供してあげて、関連部署へ「こういう研修をやったら今現場のニーズに合うと思うんですよね」などはなして、いい反応をもらったら「これでいいと思います」みたいな、そんな事をやってます。

何かを浸透させたり、社員全員に目標達成してほしいことがあるときは、ある意味社内におけるマーケティングとして捉えるべきだと僕は思います。英語必須で、管理職は800点とらないと降格という条件と教材用意だけして呼びかけるのは雑だと思うのですが、そういった似たことはいろんなところで起きています。アジャイルを広めるときにアジャイル必須といっても全員に広まりません。まずは興味をもって導入してくれようとするイノベーターの心をつかみ、その後アーリーアダプターに、とまさにマーケティングで、どうキャズムを超えるかだと思うんです。経営者は目標など決めたら権限依頼して執行部隊に任せてしまいます。
こうした状況でアジャイルを広めるためのフィアレスチェンジを訳した僕としては、アジャイル導入経験がこういったアイディアなどを組織に広めるための支援ならできるなと思っています。

あとはコーディング経験がない経営者と現場とのずれが生じることがありますが、そういった知識の隔たりよってうまれる課題にたいしてもお手伝いできるのではと思っていますね。

許せないことはわからないことをお願いするのに偉そうな人

ここからはインタビュー後の質疑応答の内容を触れていきたいと思います。

会場から集めた質問付箋を二人で選別している様子
 
許せない事ってありますか?

わりと沸点は低く、すぐ忘れる方なのですが、唯一思うのが自分がやってない事を誰か他の人にお願いする時に、偉そうな態度をするのが許せないです。特にベンダーさんに対して当たりが強い人は。自分ができないからお願いしていて、お金を払っているといっても担当者のお金ではなく会社のお金なので偉そうにする理由がないんですよ。だから人手が足りないだけかもしれないけど、リスペクトをすべきで、何か偉そうにする発注者側の人は嫌だなと思います。

自分の考える相手にとって良い事と、相手が注文してくるこうしてくれっていう物がずれて時、対立した時に自分の考え優先しますか?どういう風に進めますか?

両方にとってのベストを考えるんですけど、でも所詮は僕が考える両方にとってのベストだからたぶん僕寄りにはなってるんでしょうね。結果的に自分が考え寄りかもしれないけど、できれば相手も嬉しいわけですよ。着地すると「ありがとう」って言うじゃないですか、大人なんで。そんな感じです。だからできる事優先ですね、着地する事優先。わかってる前提なんで。

大きい企業の振る舞いは、まずは少ない人数ではじめていく
大きい組織でやりずらい事とか大きいからこそ良い事は?

大きい組織なんでっていうのは難しいと思いますね。僕の事知らない人がそこそこいるので、難しかったですけど。今だと「川口さんほど有名な人あんまいないから、社内で」って最近はなんか言われるようになって、「目立つしね」みたいな。歩いてるだけで「あのスカート履いてる人誰なんですか?」って僕じゃないところで質問が来るみたいな。でも大きい組織だからできない事はたぶん無限にあるんですよ。だから少ない人数だからできる事の方が多くて。だから大きな組織の事でどうやって少ない人数でやるかを考えるかってのがすごい大事。大きな組織だから「あの人とあの人を調整しなきゃ」みたいな話になるんだけど、コンセプトがないと調整できないんですよ。だからまずは手元でできそうな「だいたいここでいけそうかな?」って思ったのを全員に調整するってしないとうまくいかないので。

ステークホルダーが当然多くなっちゃいますもんね。

そう。「ステークホルダーの話を聞いて話に合わせるんだ」って思ってる限りは何もうまくいかない感じがします。それは組織の大小はあんま関係なくて、自分の知ってるとか取材した範囲でコンセプトを固めて仮説を作って、何人かにあてて「おお、いけそうだな」と思ったら全員説得するほうがいい。もしくは他の人に説得してもらう。

それでも、それだけ苦労してても大きいとこにいたいってのは、何かモチベーションがあったりしますか?

「いつまでいるんですか?」って言われるものの、なんだかんだで仕事が続いてしまうみたいな。
今も英語の教育が始まって、しかも4月からコーディングの教育始まって、なんか辞めずらい感じですよね。こんだけ「あれもこれもやったら事業的にはいけますよね」って言って、自分の行きたい方向にちょっとずつみんなを動かしてくのに、ここで「ごめんなさい、うまくいきそうなんで俺辞めます」って言ったら、これは若干怒られる気がします。
でも他にやりたい事もあるので、ちょっと悩みますよね。っていうのがもう6年続きました。1回目の楽天テクノロジーカンファレンスがうまくいったんですけど、半年経って「絶対今ここで辞めるのが1番気持ちよく辞められるな」と思ったんですけど、さすがに半年で辞めるのもねって思ってからもうプラス6年ぐらい。あんまり理由はないです。でもやれる事もあるし難しい事もあるし、すげー恵まれてるかっていうとありがたい事はたくさんあります。

自分がいなくてもちゃんと動くようになってからじゃないと離れちゃいけないっていう、そういう思いがあったりしますか?

それは昔からありました。辞めた時とか部署を抜けた時に「前の部署途中で放り投げやがった」みたいなのはあんまりやりたくない感じはします。だから前の部署が落ち着いたとか、別のことをやるからやんなくていいとか、予算がなくなったとか。そういう状態になってから「こっちの方でやる事があるんで、じゃあ動きますわ」ってのはあります。

今の会話の流れで「他にやりたい事もあるし」って一言ポロっとおっしゃったんですけど、そこをちょっと詳しく聞かせてください。

今結構やりたいのはアジャイルの話が最近、社内でも教育の話ばっかやってて、ちょっとそろそろアジャイルの話やりたいんですけど。どっちかっていうと今アジャイルブームなんで、アジャイルのコーチやると儲かりそうなんですよ、正直。教育とかやってる場合じゃないだろっていう思いが家族を考えればあったんですよ。

副業とかでやられないんですか?

副業は申請すればできるんですけど、副業したいかではなく。今どっちにフォーカスするかっていったら、いろんな会社が求めているのでアジャイルコーチにフォーカスする方がなんか儲かりそうな。僕が知ってるできる範囲でお手伝いできる事がたくさんありそうな気がするんですけど、でも教育のところは別に僕ご存知のようにプロでも何でもないので。

でもやりたいテーマだからやっているというのがあるのですよね?

ずっとやりたいテーマではあるので。だから根源的にはやっぱりアジャイルとかスクラムも、チームの中でどうやって自らができるようになっていくかっていう事の繰り返しで、教育だったりとか学習っていう物を密接な関係が強調されるっていうのがあるんですよね。っていう話もあるのですごいやりたい、やれるテーマでもあると思ってるんですけど。でも絶対アジャイルの方が儲かるよねって。

理想のリーダ像は「物事をわかっているうえで予算を確保して人に任せることができる人」
川口さんがいいなと思う付き合いたい良きリーダー像は?

僕から見てすごい付き合いたいリーダー像は「物事をわかっていながら任せてくれる人」かつ「予算くれる人」。金は渋いわ、なんか文句は言ってくるわ、任せないわ。・・・だったら別に仕事しないよって思いますね。

わかってるって事が結構ポイントなんですかね?

わかってるは結構ポイントで。わかってる、かつわからないとこは任せられるっていう、それはすごい大事かなと思います。文句はちょいちょい言っても別にいいんですけど、基本は任せるっていうところはやっぱりないとあんまりいいリードができない気がしますよね。後金払いが悪いとか。大事ですね。なんか創業者から遠のければ遠のくほど金払いが悪くなる法則みたいのがあって。

守りに入っちゃうのか、回す事に意思がいっちゃうのか。

サラリーマンとして入ると、もう守りというか投資の仕方がわかんないんでしょうね。「ばーっとここは一気に走らせた方がうまくいく」感覚を持っているのはやっぱり創業期に近い。創業オーナーは完全にそれが100%できるわけですよ、自分の責任でね。

サラリーマンの減点を防ぐ性質が身に付いてるのかもしれないですね。

あとね、わかったふりする。だって、やった事ないんですよ。創業者は全ての物1回見てるからわかってるかなと思います。後から入ったサラリーマン社長はその一部しか体験してないからわかんないんですよ。超一般論として。もちろんそうじゃないひともいらっしゃいますが。創業社長がうまいんですよね。リスクの持ち方と持たせ方と。そこがリーダー像としては大事だろうなっていう感じがします。

僕すごいなと思ったのが、任天堂の岩田さんと山内さん。岩田さんは彼は何でも知ってるから当然、ファミリーコンピューターの初代でゴルフ、バルーンファイトを作った人ですね。あとはスーパーマリオのいい感じの飛び方とか。もうバリッバリのプログラマーですよ。技術を知っているからこそ任せることができる。また山内さんも横井軍平さんに仕事をいい具合に任せてゲームボーイをうみだします。僕はポジション的に横井さんなのでそういったリーダーだといいなと思いますね、

ずっと先の野望より方向性はあるけど「今」やってみたいことをやっていく
次の野望があれば。

次の野望、ない。ないんです。だからあんまり野望取り分じゃないんです。あえていうなら仕事しない。家で寝てられる生活がしたいけどお金がないです。いつも目の前でいっぱいいっぱいなんでしょうね。

製品開発とかはヒットは作りたいですよ。でもそれは今なんですよ。今年事業を生き延びさせられるのが僕のファーストクライアントで、それは執行役員からも去年言われて。だから今年黒字にするってのが必達だったんですよ。なんとか12月までの黒字着地が見えてきたんで、なんとかしましょう。そしたら来年生き延びるので、次は拡販ってかもうちょっと大きな企業にしなきゃいけないねって話は一応してて。それはそうですね。完全に、常にそうです。それはそうですよね。つまりヒットするプロダクトを会社のとこで作りたいっていうのは、だいたい。

僕そんな遠いビジョン持ってないから。僕結構そこは近場の取れそうなりんごだけ食ってるみたいな。でも方向性はこっちだよねみたいな感じはします。あんまり遠大な野望はわかんないです。いい感じに食っていきたい、楽して生きていきたい。

どっちかというといろんなところ駆け巡っていろいろやれてるイメージが強いんで。
いろんなとこにひょひょっといつの間にかいるっていうぐらいの、フットワークのいい意味の軽さがあるなと。

そうですね。楽だからそこに行くっていう。
ジェフ・サザーランド呼ぶって平鍋さんと一緒にやった方が楽じゃんみたいな。っていうか、そういう事だと思うんですよね。楽天に入ったら楽天テクノロジーカンファレンスやれるしみたいな。だって金ある会社に入ったら投資してくれそうだしみたいな。でも意外と渋いなみたいな。それはそうですよね、ビジネスですからね。意外と前の会社の方が良かったですね。やっぱり楽天はさすがですよね。BtoCWEBビジネスなのでCからもらっている額がすくなく、お金にたいしてシビアだなと思います。前の会社が豊満に使ってたとかじゃないんですけど、やっぱりBtoB向けで金融機関なのでそんなに頓着が。お金のもらい方は証券業界向けだと、証券業は儲かってんのにバンバン金出す業界だったり。ちょっと博打的にはなりますけど、そういう意味では。

外注するから学ばないと思っていたらそれですまない時代が来る
外注するのだから社員が学ぶ必要ある?という言葉に対してどのように答えたらいいと思いますか?「正しく自分達の意図を伝えたいって時に、少しでも知って方がやっぱりいい物ってできるじゃないですか?」っていう言葉を使っても、「うーん」としっくりこないみたいでどういう風に伝えていけばいいのかなってのをすごく悩んで。

「Facebookがわからないマーク・ザッカーバーグどこにいますか?」って聞いたりします。でも「社長はもっと知ってるけどね」みたいなのがFacebookじゃないですか。去年Microsoftに遊びに行って上まで含めてもみんなコーディングがわかる人達が、僕よりもよっぽどできる人達がそこの会社をコントロールしてるってわかって、そこと勝負しなきゃいけないってわかった時に、技術を知らない提供者ってどうなんだろうって改めて痛感しました。
「50代ぐらいでソフトも使った事ない人達が3年だけ会社の経営をやる」みたいな、それでは済まない時代が来ている感じがしてます。でもそうはいっても「今から急に勉強できないじゃん」って言い出すじゃないですか。でもあなたがお客さんだったら、当然相手はソフトウェアわかってる人だと思ってその会社にお金払うでしょ。「自分が選択するのに、あなたが選択されない理由はわかりますよね?」と聞くかなと思います。

小さいことに悩む日もある
今までいろいろ聞いててちょっと思ったんですけど、川口さんってこういう風にするべきだって結構いっぱい持ってらっしゃるなと思うんですけど、それでもやっぱ悩む事とかってあったりしますか?

悩むばっかりですよね。明日展示館に行くんですけど今日中になんかレポート出さなきゃいけないみたいな話が、社内お客さんから受注してて、出かけに「これ丸投げされても困る」みたいな事言われて、今悩んでます。丸投げってこの間のやつ俺作った気がするんだけど、「これ僕らの仕事なんだよね?」って「そうです」みたいな感じで。とかって悩んでます。

実はちょこちょこ悩んでらっしゃるという?

しょっちゅうですね。だいたい悩んでますよね。なんか楽しそうに見えるって言われますよ。だから川口さんは好きにやってて楽しそうに見えるから悩んでなさそうに見えるって、だいぶ悩んでる方だと思うんです。

その発言がたぶんみんなが安心する1個の要素なのかなって思います。

それはそうですね。でも好きにやってるよねって言われます。それは1つの悩みではある。もうちょっとわかって、もうちょっと労ってほしい。いろいろと調整しながら、こっちの人の事先にやってあげた方がいいかなとか思いながら、時間の配分しながらやってるんですけど、なんか好きにやってるように見えるっていうのはよく言われます。